恩田陸「夢違」は、夢と現実の境界の曖昧さを感じる不思議な本だった
恩田陸ワールド、初体験
夢を映像として記録し、デジタル化した「夢札」。夢を解析する「夢判断」を職業とする浩章は、亡くなったはずの女の影に悩まされていた。予知夢を見る女、結衣子。俺は幽霊を視ているのだろうか?そんな折、浩章のもとに奇妙な依頼が舞い込む。各地の小学校で頻発する集団白昼夢。狂乱に陥った子供たちの「夢札」を視た浩章は、そこにある符合を見出す。悪夢を変えることはできるのか。夢の源を追い、奈良・吉野に向かった浩章を待っていたものは―。人は何処まで“視る”ことができるのか?物語の地平を変える、恩田陸の新境地。
狙ったわけではないけれど、初めての恩田陸作品が「夢違」(ゆめちがい)となりました。492ページあり、長時間手に持って読むには正直辛いサイズ・重さではありました。が、それにも増して展開が気になり、引き込まれてしまいました。
ほぼ一文ごとに改行されているため、読書スピードの遅い私でも、パラパラとページを捲る事が出来るのが心地よかったです。あっという間の492ページでした。
ちなみに、冒頭に配した写真は奈良公園。物語には度々、奈良が出てきます。「吉野」や「奈良公園」、「若草山」などなど。奈良、また行きたいなぁと思いましたw
分からないけど、怖い。
主人公・浩章の身に、謎に満ちた出来事が頻発する訳ですが、その謎は解明されるどころか、章を追うごとに益々分からなくなります。分からないのに、恐怖心はどんどん増していく。分からないから、余計に怖い。
浩章の前に姿を現した予知夢を見る女・古藤結衣子は、果たして幽霊なのか、それとも生きていたのか。全く何も解明されないままに読み進める事になるものの、展開が気になってどんどん読んでしまいました。
表紙も一見ぼんやりとした断片的な模様のように見えていましたが、よくよくみてみると、1つ1つが景色だったり、人物だったり、謎の生物が描かれていたりと、不思議でゾッとするようなイラストで構成されています。夢とは得てして荒唐無稽なもの。それを上手く表現した装丁だと思いました。
多ジャンルに跨ったストーリー
「幽霊」騒動や集団白昼夢・神隠しなどはオカルトやホラーの様相を呈しているものの、夢を映像化して見る事が出来る「夢札」というシステムが実用化されているあたりは近未来SFとも言えます。また、古藤結衣子と浩章の、何年もの時を経た恋愛ストーリーと見る事も、できなくはないですね。大きく括って「ミステリー」と言ってしまえばそれまでですが、その一言で言い表せない、多彩な設定・要素を持った物語なのが面白いです。
最後まで割り切れない
読了後、気になってブクログなどのレビューを見ました。皆さん一様に「最後がはっきりしない」と仰っていましたね。私も全く同感です。一体どうなってしまったのか、どうとでも解釈出来るんですよね。
二人はあの後、どうなってしまうのか、色々なパターンが想定出来ます。その判断は読者に委ねる、というのが著者の思惑のように感じました。一旦は物語通り受け止めてみようと思っていますが、二周目、三周目と読み返してみたら、また新たな結論に到達するような気がしています。何か見逃している伏線やヒントがあるかもしれない、そんな謎解きめいたストーリーでもあります。
もしかしたら最後の方、全部浩章の「夢」かもしれませんしねw
(「東京大学物語」以来の壮大な夢オチとか…?)
個人的には、浩章の奥さんが幸せになると嬉しいですwもし読んだままの最後だったら、奥さんが救われなさすぎるw
「夢違」は、テレビドラマ「悪夢ちゃん」の原案にも
ちなみに、「悪夢ちゃん」というテレビドラマの原案となったのが本作との事です。
「悪夢ちゃん」は未視聴ですが、この世界観を少しでも映像化出来たのならすごいなと思います。夢札を見ているシーンとか、あるのでしょうか。こちらも気になりますね。