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【書籍】タイトルすら狡猾に読者を騙す-米澤穂信「犬はどこだ」-


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犬はどこだ (創元推理文庫)

平和な探偵ものと思っていたら、痛い目に遭います

開業にあたり調査事務所“紺屋S&R”が想定した業務内容は、ただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。―それなのに舞い込んだ依頼は、失踪人捜しと古文書の解読。しかも調査の過程で、このふたつはなぜか微妙にクロスして…いったいこの事件の全体像とは?犬捜し専門(希望)、25歳の私立探偵、最初の事件。新世代ミステリの旗手が新境地に挑み喝采を浴びた私立探偵小説の傑作。

英語タイトルは「THE CITADEL OF THE WEAK」(弱者の砦)。「犬はどこだ」と全く雰囲気の違うタイトルですね。でも、全く別物のように思える2つのタイトルが、実は、この物語にはピッタリとマッチしています。

「犬はどこだ」という少し間の抜けた感じは、主人公、紺屋(こうや)長一郎(「古典部」シリーズの折木奉太郎の「省エネ主義」をちょっとだけ彷彿とさせる人物)と、その後輩・ハンペー(一見、筋肉バカっぽい。)の、ゆるい雰囲気をよく現しています。

逆に英語タイトルの「THE CITADEL OF THE WEAK」(弱者の砦)は、探偵事務所の初仕事である失踪者探しの、悲しくシリアスな展開を予見させます。お見事。

毎回米澤穂信作品を読む時は、英語タイトルを確認するのも楽しみの1つだったりします。

米澤穂信作品、思えば結構読んでました

米澤穂信作品は、以下を読了しています。

  • 「古典部」シリーズ
  • さよなら妖精
  • 「小市民」シリーズ
  • ボトルネック
  • インシテミル

自分でまとめて思いましたが、意外と読んでますね。中でも好きなのはやはり「古典部」シリーズです。折木奉太郎が、「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」といいつつ、結局は千反田えるに振り回されているところが微笑ましい。あと、京アニのアニメも面白かったですね。

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米澤穂信といえば、高校生達の青春を描いた日常系ミステリ、「古典部」、「小市民」などのシリーズのイメージが強いです。思わず「ニヤリ」と口角を上げてしまうような言い回しもあり、大好きな作品群です。

その一方、クローズドサークルでの殺し合いという、衝撃的な内容の「インシテミル」や、亡くなった恋人を追悼するために訪れた東尋坊で崖から墜落し、パラレルワールドへ入り込む「ボトルネック」など、ストーリーレンジの広い作家です。「さよなら妖精」もそうですが、どこか物悲しい雰囲気を持ったストーリーもたくさんありますね。

果たして、この「犬はどこだ」は、そのどちらの部類に入る作品でしょうか。それは、最後まで読んだ人のみぞ知る…。

話は変わりますが、数年前、大谷大学(京都)での講演会・サイン会へ足を運び、ご本人のお話しを聞く機会がありました。「正確に話そう」という誠意が伝わってきたのが、とても印象的でした。明るい好青年といった感じで(私より目上の方なのですが、「好青年」って感じでした)、会場では笑いも起きていて、「こんな好青年が『さよなら妖精』や『インシテミル』を書いたなんて…」と思ったものです。

ゆるい→意外とシリアス?→ハラハラ→!?

少し脱線してしまいましたが、「犬はどこだ」に戻りましょう。

ミステリの中では王道とも言える探偵ものです。ただ、今回の探偵は脱サラして開業したばかりの25歳。この時点でかなり不安です。素人がやろうと思って探偵業なんて出来るのだろうかと。「犬捜し専門」とは言っていますが、舞い込む仕事が、予想に反した失踪人探しや古文書の解読というのも、「あれ?犬関係無いじゃん」と出鼻をくじかれます。

そして開業したての癖に、早速部下ができてしまいます。学生時代の後輩、「ハンペー」。名前もゆるいが、口調もゆるい。語尾はだいたい、「〜っす」です。

こんな感じで、ゆるい「ズッコケ探偵物語」が始まるのかとおもいきや、実は調査はどんどんシリアスな展開になっていきます。それなりに調査能力の高い主人公・紺屋と、根性と機動力のあるハンペー。それぞれ別に調査していた事件が、何故か交差していきます。読者は早い段階でそれに気づくのですが、登場人物たちはそれに気が付きません。

「おい、気づけ!」
「あ、それ惜しい!」

とヤキモキしながらも、どんどんストーリーは展開して、読者はハラハラです。

結局そのハラハラがどうなってしまうのか。最後の大どんでん返しに驚く事でしょう。ぜひ、その目で確かめてみてください。夢中になるので、1日で読めます。

ストーリーのスパイスも美味しい

ストーリーの重要なスパイスとなるのが、歴史です。城だの、ムラだのといった、その土地の中世の歴史を掘り起こすと、現代に起きた事件の謎が不思議と解ける仕掛けになっているのです。「歴史の謎を解き明かす」という、学問の面白さを追体験出来るのも、この作品の魅力と言えます。

それからもうひとつ重要なスパイスとなるのが「インターネット」。中世史とはまたえらく隔たりがあるように思えますが、2005年に発行されたこの本には「インターネット」が重要な要素として出て来るのです。中には「2ちゃんねる」なんて名前も出てきます。また、紺屋長一郎の顔の見えないアドバイザー「GEN」は、とあるサイトのチャット仲間です。チャットが設置されたサイトというのも、なんだか懐かしい気がしますね。

更には、「へこたれた主人公が更生する」ストーリーでもあり、「兄(主人公)と妹の絆再確認」のストーリーでもあり、「ハンペー成長譚」でもあります。それらのサブストーリーに着目しても面白いです。

途中、一応、犬(野犬)は出てきますが、最後まで「犬捜し」は出来ず。最後に主人公の紺屋長一郎がつぶやく一言を、私も言いたいです、「犬捜しだったら、よかったのに」。

犬はどこだ (創元推理文庫)

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