「明日、世界がなくなります」<世界の終わり>系小説をまとめてみた
と言われたらどうしますか?
世界の終わりに、人間はどういう言動をするのか、自分は何を思うのか。気になりますね。
古くは聖書に見るノアの方舟や、日本・中国の末法思想 ((厳密には終末論と末法思想は同一視されないようですが。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AB%E6%B3%95%E6%80%9D%E6%83%B3))など、終末に対する人間の恐怖というのはいつの時代、どこの世界にもあるようです。
今や「SEKAI NO OWARI」というバンドも居るくらい、目を背けたいのになぜか指の隙間から覗いてみたくなる、そんな魅力が「世界の終わり」にはある。
現代文学の中にも、世界の終わりをテーマとした作品は少なくありません。
世界が終わるというドラスティックなシチュエーションは、作家の創作意欲を掻き立てる魅力があるんでしょうね。
幾つかまとめてみました。絶望の中に希望を見出だせる作品もあれば、最後までとことん絶望的な作品もあります。
もし変化の無い日常に飽きたら、手にとってみると良いかもしれません。
「明日、世界がなくなります」
と言われたつもりになって今日を過ごしてみる、そんな戯れも面白いかもしれません。
有川浩 「塩の街」
「阪急電車」や「図書館戦争」の大ヒットで、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの有川浩さん ((名前だけ見ると男性みたいですが、女性です。))。
そのデビュー作となった「塩の街」です。
以下、Amazonの商品説明から引用したあらすじ。
塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。あるときは穏やかに、あるときは烈しく、あるときは浅ましく。それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた……。
第10回電撃大賞<大賞>受賞作にて有川浩のデビュー作でもある『塩の街』が、本編大幅改稿、番外編短編四篇を加えた大ボリュームでハードカバー単行本として刊行される。
「塩害」って新しい着眼点ですよね。まさか塩で世界が終わるなんて、奇抜な発想。
昨日までいつもと同じだったのに、一夜明けると東京の埋立地に刺さる巨大な塩の結晶や、塩化して彫像のように動かなくなった人々が目に入ります。
暴徒と化す一般市民に襲われたり、家を荒らされたり。
そんな「異様な光景」が「日常」となってしまった世界が描かれています。
読み切りの短編のようでいて、人や時系列に繋がりがあり、一つの大きな物語になっています。
「自衛隊三部作」の第一作。 ((自衛隊三部作))
中でも印象的だったのは、秋庭が塩の結晶に攻撃する直前に真奈に向けて放った、秋庭の友人(悪友?)、入江のこの言葉。
「君が先に死ぬのを見たくないってだけの、利己的な自分の感情を救ったんだ。(略)
僕らが救われるのはそのついでさ。
君たちの恋は君たちを救う。
僕らは君たちの恋に乗っかって余禄に与るだけさ」
世界を救うなんて大義名分は二の次で、愛する人を救いたいというエゴの延長線上に世界平和があるだけなんだと、すっぱり言い切っていて清々しい。
「愛は地球を救う」ならぬ「エゴは地球を救う」ですね。
確かに、自分の命を賭してまで地球を救う場面があるとしたら(ないけど。絶対ないけど。)、世界より家族や友達を守りたい一心で動くんじゃないかなぁという気がします。
果たして、塩害は食い止められるのでしょうか。それとも、世界の終わりがやってくるのでしょうか。
伊坂幸太郎 「終末のフール」
八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。
ちょっと変わり種の終末ユーモア小説。
何が変わってるって、世界が終わるまでまだ3年の余裕があるんです。
パニック系の終末小説は、「時間がない!早く地球を救わないと!」という焦りというか、逼迫した感じがありますが、この作品はテーマの割にのんびりしています。
もちろん、終末なので人間は絶望し、荒れていますが、それももう5年過ぎてるので逆に落ち着いてきてるというんですね。
これにリアリティがあるのかは実際に同じ状況が来ないとわかりませんが、確かにずーっと荒んでいても状況が変わらないのなら、諦めて逆に日常に戻ってしまうかもしれませんね。
のんびり感は目次にも現れていて、すべての章が韻を踏んでいます。
- 終末のフール
- 太陽のシール
- 籠城のピール
- 冬眠のガール
- 鋼鉄のウール
- 天体のヨール
- 演劇のオール
- 深海のポール
…ダジャレか!
こんな感じなので、暗くて重い話が苦手な人でも、気軽に読める内容だと思います。
でも心がほっこりするような、何かが残る感じも素敵です。
少年がいたずら心を隠さずに小説を書いたような、そんな伊坂ワールド全開な作品。
村上春樹 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」全2巻
以下、Amazonの商品説明から引用したあらすじ。
高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。
村上春樹の不思議の国。
これです、まさに。
不思議っていうか難解っていうかファンタジーっていうか。
とらえどころのない作品という印象です。
物語は「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という二つの世界が同時進行で展開していきます。
本作での「世界の終わり」は、これまで紹介した作品とは性質を異にするもので、地球滅亡といった話ではありません。
「心」の無い人々がルーティンワークを淡々とこなし、昨日と同じ今日を過ごす、高い壁に囲まれた世界。それが「世界の終わり」です。
地球滅亡より得体が知れない分、ジワジワ来る恐怖がありますね。
ヒロインがぽっちゃり美人で、描写が好きです。
ジョージ・オーウェル 「一九八四年」
“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。
ビッグ・ブラザー怖い。
ビッグ・ブラザーの管理する社会はある意味でこの世の終わりです。
日常生活は随所に設置された「テレスクリーン」に監視されているし、洗脳すべく音や映像が常に垂れ流されている。
ウィントン・スミスの仕事も、ビッグ・ブラザーに不都合が生じる歴史を改竄すること。
誰もがビッグ・ブラザーに絶対服従するこの社会に、愛するジュリアとともに反抗するスミスは一体どうなるのか。
隣人すら信用できない、絶望的な管理・監視社会。
絶対君主「ビッグ・ブラザー」に、哀れスミスは打ち勝つことができるのか?
「1Q84」関連で「読んでてよかった本」「これから読みたい本」 | Webookerでも紹介しましたが、このビッグ・ブラザーを元にしているのが「1Q84」の「リトル・ピープル」ですね。
あれから本作を読んだのですが、まぁ怖いのなんの。
ぜひ一度はこの恐怖を体感してみてください。
番外編!
鬼気迫る<世界の終わり>系としてはちょっとずれてるけど「こんなのもあるよ」、という事で。
角田光代 「だれかのことを強く思ってみたかった」
角田光代と佐内正史が切りとる東京の記憶。
「ねえ地球最後の日にさ、あたしこの町にいるわ、そんでショップというショップからほしいものを全部強奪して死ぬわ」(「世界の終わり」)。写真とショートストーリーで描き出すふたりの、「東京」。
作家・角田光代と作家・佐内正史がコラボした短編小説。「世界の終わり」という短編が入っています。
写真の分量は思っていたより多めですが、ストーリーの雰囲気と合っていて素敵な本に仕上がっています。
文章も少ないし、サラリと読めました。
パトリシア・ハイスミス 「世界の終わりの物語」
ハイテンションでポップな表紙とは裏腹に、ブラックで風刺がきいてる短篇集です。
不合理な展開や不安感
とwikipediaに書かれている通り、シュールで不安な物語たちが詰まっています。
晩年のハイスミスが、自然界と人間のさまざまな崩壊の物語を綴った最後の短篇集。
生体実験の遺体を埋めたオーストリアの墓地に、異常繁殖する巨大キノコの謎。放射性廃棄物の処理に困ったアメリカ政府が打った秘策と、そのかげで起きた恐るべき事故。高級高層マンションを突然襲う、巨大ゴキブリの恐怖。おそろしく、おぞましく、そしてとびきり面白い、愚かな人間たちの物語。
ね、訳がわからないでしょう?w
オチも「え?」という感じで終わっていたりしますが、それも含めて雰囲気で楽しめる作品群です。
馳星周 「約束の地で」
未来は無限に開き、閉じている。
という印象的なフレーズが度々出てきますが、未来に絶望した、あるいは何の希望も見いだせない人物が主人公です。
借金を苦に自殺しようとする男、痴呆で我儘な母の介護に疲れた女性、父子家庭で孤独に生きる不登校の中学生。
舞台である北海道の厳しい寒さが、彼らの人生を体現しているかのようです。
その中に、「世界の終わり」という短編が収録されています。
父子家庭の孤独な不登校中学生、智也。
智也が言う「世界の終わり」は、我々の想像する「世界の終わり」とは幾分様子が違うかもしれませんね。
未来は無限に開き、閉じている。
まだまだ人生これからの中学生。
でも、智也の人生は閉じたものでしかありませんでした。
仕事だと嘘をついて女性と遊ぶ父親、智也をいじめる中学校の生徒たち、愛犬レオだけが彼の心の支えでした。
他の作品とは種類の違う、狂気じみた智也の世界を、是非覗いてみてください。
ちなみに、以前ツイートした通り、全て独立した短編ではありますが、登場人物が連鎖しています。
1話目で出てきた人が2話目の主人公、といった形式でリレーしていくので、繋がりがあって興味を維持したまま読み進められます。
ツイートでは「少し暗い」と言いましたが、最後まで読んだ今、ハッキリ「暗い」と言い切れますw
暗いのが苦手な方は避けた方がいいかもしれませんが、この不快なもの見たさってどうしてこんなに人を惹きつけるのでしょうか。
嫌なんだけど読み進めたい!
そんな作品でした。
宮崎誉子 「世界の終わり」
2002年に発行された、まるでマンガのようなライトな読み口の短篇集です。
…と思ったら実際に岡崎京子さんの漫画「Pink」を参照して書かれた「スモーキン・ピンク」という作品が入っていました。
マンガと親和性の高い文体は、テンポがいい。
私は二十六歳で、写真屋で働いている。好きな雑誌は「ロッキング・オン・ジャパン」。好きなバンドはミッシェル・ガン・エレファント。好きなアイドルは小泉今日子。好きなブランドはユナイテッド・アローズ。好きなマンガ家は岡崎京子。死にたくなる瞬間は好きなことについて考え、生き続けている。
表題作「世界の終わり」の主人公です。
この情報だけで「こんな子いるいる!」と想像できてしまいますね。
今でいう「サブカル系好き女子」とでもいいましょうか。
彼女たちの世界では「死」や「仕事」があまりにもあっけらかんと描かれていますが、その実悩んで、苦しみながら進んでいく様に共感できます。
特に仕事の描写がリアルです。
「ライム☆スター」に出てくる、オープニングスタッフのバイトをする黒江さん。
年下のバイト達と交わす殆ど意味を成さない会話もリアルで、「あるある」と頷いてしまう。
なんでもそつなくこなし、人から好かれる彼女も、色々な悩みを抱えています。
定職につかず、バイトを渡り歩くフリーター生活。
そして衝撃的なラストシーン。
私はフリーターなんて言葉、大っ嫌いだ。
なれるものにしかなれない、ナレーターだ。*
―そして私は、運命の人と出会った。
え、このあとどうなるの?
ものすごく好奇心を刺激されますが、想像力を掻き立てられたままで投げっぱなしの完結。
黒江さんのこれまでを読んできたからこそ、この先を色々想像出来てしまう面白さ。
2002年に発行されたとはいえ、現代の20代女性にも共感しやすい内容です。
歌野晶午 「世界の終わり、あるいは始まり」
少年犯罪を扱った異端のミステリ小説です。
東京近郊で連続する誘拐殺人事件。誘拐された子供はみな、身代金の受け渡しの前に銃で殺害されており、その残虐な手口で世間を騒がせていた。そんな中、冨樫修は小学6年生の息子・雄介の部屋から被害者の父親の名刺を発見してしまう。息子が誘拐事件に関わりを持っているのではないか? 恐るべき疑惑はやがて確信へと変わり…。
既存のミステリの枠を超越した、崩壊と再生を描く衝撃の問題作。
解説・笠井潔
主人公・冨樫修に、職場の後輩である西が、相談を持ちかけます。
「12歳の息子が過激なエロ本を所持しているのを見つけてしまった。父親としてどう接するべきか」
男の子のエロ本問題、よく耳にしますね。
新聞の投書欄などでも昔から見かける永遠のテーマとも言えます。
この卑近なエロ本問題が、そっくりそのまま残虐な「誘拐殺人事件」に置き換わるのが衝撃的です。
「12歳の息子が残虐な誘拐殺人犯である証拠を見つけてしまった。父親としてどう接するべきか」
息子が犯人である揺るぎない証拠を徐々に見つけていくあたりは、謎を解明していくという意味で正当なミステリと言えるかもしれません。王道といってもいいでしょう。
ところがここからが違います。
父親である冨樫修は煩悶し、いったい息子にどう接するべきかを何パターンもシミュレーションします。
それも克明なシミュレーションを。
「息子と腹を割って話し合ったらどうだろう」
「息子の罪は許しがたいしこれからの人生を考えるといっそ殺した方が…」
「一家心中をはかろう」
などなど。
どれも想像としては考えてしまいますね。
ところがそのシミュレーションがすごくリアルで、想像している本人ですら予想外な要素が出てくるのです。
また、どこまでがシミュレーションで、どこからが事実なのかが読者にわかりません。
すごく不安定な状態で後半のストーリーが展開していきます。
息子が犯人である証拠を見つけるまでが前半、息子とどう接するかのシミュレーションが後半、といった具合で、シミュレーションにかなりのページ数を割いています。
冨樫修の取る行動は、世界の終わりへ繋がるのか、あるいは始まりなのでしょうか。
[…] 「明日、世界がなくなります」<世界の終わり>系小説をまとめてみたでもご紹介していますので、ご参照ください。 […]