人物も面白けりゃ著作も面白い
大杉栄は明治・大正を生きた「思想家・作家・社会運動家・アナキスト」、だそうです。
日本史の教科書で、名前くらいは見かけた事があったと思いますが、それ以降、特に興味も無く過ごして来ました。そもそも、「無政府主義」とか「アナキスト」って言葉の意味もよくわかりません。
そんな私が何の予備知識も無く読み始めた大杉栄の著作ですが、これがまた面白いのなんのって!明治・大正の人なのに、「現代人の私が読んでも笑えるエッセイ」を書いていたなんて驚きました。
大杉栄を知った契機は「THE BOOKS」
こちらの記事(本のガイドブックとして最適!『THE BOOKS 365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』(1))で書いていますが、元々はTHE BOOKSという、書店員が「これは!」という本を薦めている本で知りました。
その中で、大杉栄の「獄中記」、「続獄中記」、「日本脱出記」が紹介されていました。見てください、全部版権切れで無料なんです!(こちらは全て電子書籍。製本して売られている有料の本もあります。)
速攻ゲットし、すぐ読み始める事が出来ました。電子書籍はフットワーク軽くスタート出来るので嬉しいですね。
投獄された事すら愉しむ豪放磊落さ
「獄中記」では、当時の牢獄の様子が仔細に紹介されています。そして大杉栄の感想がまた奮っているんですよね。
室の四方は二尺くらいずつの間を置いた三寸角の柱の間に厚板が打ちつけられている。そして高い天井の上からは五燭の電燈が室じゅうをあかあかと照らしていた。
「これは上等だ。コンフォルテブル・エンド・コンヴェニエント・シンプル・ライフ!」
confortable and conveniet simple life!(快適で便利なシンプルライフ!)ですってよ!
何楽しそうに英語にしてんですか!牢屋ですよ、そこ!
ほぼ終始この調子で、獄中生活を楽しんでいるきらいすら見受けられます。漫画化するなら「のだめカンタービレ」の二ノ宮知子氏にお願いしたいです。
大人物なのになぜか天然なキャラ、二ノ宮知子ワールドにいそうです。(ミルヒーとか!)
「一犯一語」を自らに課す
このエピソードはどちらかと言うと「すごいな!」と感心すべき事なのかもしれませんが、どうもちょっとピントがずれて行ってて面白いんです。やっぱり最後は笑かしてくれるんですね、栄ちん…。
元来僕は一犯一語という原則を立てていた。それは一犯ごとに一外国語をやるという意味だ。最初の未決監の時にはエスペラントをやった。次の巣鴨ではイタリア語をやった。二度目の巣鴨ではドイツ語をちっと齧った。こんども未決の時からドイツ語の続きをやっている。で、刑期も長いことだから、これがいい加減ものになったら、次にはロシア語をやって見よう。そして出るまでにはスペイン語もちっと囓って見たい。とまずきめた。今までの経験によると、ほぼ三カ月目に初歩を終えて、六カ月目には字引なしでいい加減本が読める。一語一年ずつとしてもこれだけはやられよう。午前中は語学の時間ときめる。
元々頭は良かったと思いますが、半年後には辞書無しで原書が読めるなんてスゴすぎる…。
「本当に犯罪で投獄された人ですよね?」
と改めて確認したくなるほど、大杉栄の向学心というのは旺盛です。もっとも、現代に生まれていれば、投獄されていなかったかもしれませんがね。それにしたって、自分が投獄されたことへの煩悶というか、悩みが見えません。反省の色無し!
そして更にぶっ飛んだ事を言い出す大杉栄。
あの本を読みたい、この本を読みたい、と数え立ててそれを読みあげる日数を算えて見ると、どうしてもニカ年半では足りない。少なくとももう半年は欲しい。
こうなると、今までずいぶん長いと思っていたニカ年半が急に物足りなくなって、どうかしてもう半年増やして貰えないものかなあ、などと本気で考えるようになる。
意訳:試算してみたら語学学習の時間足んないから、あと半年ほど刑期延ばしてくんないかなぁ?(てへぺろ!)
あのー、獄中ですよ?
「勉強したいから刑期増やして下さい」って頼む人なんて、普通はいませんよ?
なんかここまで来ると天然なのか計算なのか分からないです。でも面白い。
獄中で出会った”変なヒト”エピソードも
出っ歯でちょこまかしていた「出歯亀くん」、「どうせ、いつ首を絞められるんだか分らないんだから…。」と豪語してわがまま放題を尽くす「強盗殺人君」、いつもみんなを笑わせている、片足の不自由な少年などなど…。
獄中で出会った面白い人物を紹介する件があります。獄中なので当然みんな犯罪者なのですが、それがまた人間味溢れるキャラの濃い人ばっかりなんですよね。
また、仲間内何人かで投獄された際は、女郎屋ごっこをして遊んだりしています。
看守を客、自分たちを女郎に見立てて、
「もしもし眼鏡の旦那、ちょいとお寄りなさいな」
とやるんだとか。辛く厳しい獄中生活のハズなのに、どうしても楽しそうに見えてしまうから不思議。
歴史上の有名人も登場
同時に投獄されていた仲間として、小説家・歴史家でもある堺利彦や、「大逆事件」の幸徳秋水、石川三四郎なども登場します。日本史は詳しく無い私でも、「この人の名前、どっかで見たなぁ」と思って調べてみると、歴史に名を残す人物である事が多々あります。
激動の時代を生きた大杉栄の周囲には、やはり面白い人物が集まってきているんですね。日本史好きにも楽しく読んでいただけそうな本です。
子どもたちの命名も変わっていた大杉栄
著作から大杉栄自身に興味を持って、wikipediaで調べた情報です。伊藤野枝との間に生まれた子ども達の名前が変わっていたのでご紹介。
左から大杉栄、長女・魔子、伊藤野枝。
長女・魔子(のち真子)
次女・エマ(のち幸子)
三女・エマ(のち笑子)
四女・ルイズ(のち留意子)
長男・ネストル(のち栄)
次女エマ以外は大杉・伊藤の死後、伊藤の実家に引き取られ、戸籍を届けるときに改名されたものである。
なかなか珍しい名前ですね。魔子さん以外は、おそらく国際化に向けて外国名をつけたのかもしれません。(しかし、次女と三女が同名って区別しづらい気もしますが…。)
子ども達に外国名をつけた有名な事例としては、森鴎外が思い浮かびますね。
長女・茉莉(まり、随筆家・小説家)
次女・杏奴(あんぬ、随筆家)
次男・不律(ふりつ、夭折)
三男・類(るい、随筆家)
こちらは改名されずそのままの名前です。
長女・森茉莉が鴎外について書いた「父の帽子」は有名ですね。
森鴎外が1862年2月17日–1922年7月9日に生きた人で、大杉栄が1885年1月17日-1923年9月16日に生きた人なので、二人の生きた時代に接点があるのも面白いです。
まだまだ読める、大杉栄の無料本
Kindle無料本で「大杉栄」の著作は12件ヒットします。
ひとまず読めるだけ読んで、もっと大杉栄の面白さを掘り下げて見たいと思っています。いやー、素敵な新発見でした。