大人の甘〜いトキメキ。
甘〜い恋愛ものは、大人になったら楽しめないと思っていた時期が私にもありました。
子どもの時は、結婚して落ち着いたら「トキメキ」を感じる事はなくなるんだと思っていました。
あるとしても、自分の伴侶に対して胸キュンするものだと信じていました。
でも、あるんですね。
大人でも読んでいてドキドキして、展開にハラハラして、最後は駆け抜けるように夢中になって読める恋愛小説が。
有川浩「植物図鑑」が、まさにそれでした。
植物図鑑 | 電子書籍-BOOK☆WALKER
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「女の子の旅と冒険」がテーマ
初出は携帯小説サイト「小説屋Sari-Sari 本読み女子に贈る、旅と冒険の物語マガジン」。とはいえ、一般的な携帯小説(?)ほど砕けた感じでもないし、変な空欄や改行もなく、至ってマトモな小説です。初出サイトのテーマでもある「女の子の旅と冒険」がメインテーマ。
ある日、道ばたに落ちていた彼。「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか?咬みません。躾のできたよい子です」「―あらやだ。けっこういい男」楽しくて美味しい道草が、やがて二人の恋になる―。書き下ろし番外編に加え、イツキ特製“道草料理レシピ”も掲載。
植物図鑑
より抜粋
いつも見慣れたご近所も、気の持ちようで冒険に。
少し足を伸ばしてみたり、ちょっと道端に視線をやったり。
この世は、新しい発見に満ちている。
というのが「旅と冒険」というテーマの部分。
著者のあとがきに拠れば、裏のテーマが「落ち物女の子バージョン」だそうです。
落ち物というのは、「天空の城ラピュタ
今回は女の子の元へ男の子が落ちてきた(?)ので、女の子バージョンという訳ですね。
女の子とはいえ、主人公のさやかは25〜6歳のOLです。
人並みに仕事をしてはいるものの、家事(特に料理)はてんでダメな現代っ子。
そこへ現れたのがイケメン万能家政夫のイツキ。
名前以外全く素性が分からない、でも育ちの良さそうな若い男性と、ある日同棲することに…。
そんなふたりが次第に気を許すようになります。
やたらと植物に詳しいイツキの指導の元、さやかは少しずつ植物を覚えるように。
山菜や野草を料理して食卓に出してくれる素敵男子・イツキ。
こんな家政夫欲しい…。
「甘い」だけじゃないんだぜ
ある日、胃袋も恋心も満たしてくれる素敵な男の子と出会って、恋をして…。
というだけじゃあ、ただ読者の欲望を満たすだけの恋愛小説で終わってしまいます。
ここで終わらないところが面白いところ。
一気にハッピーエンドに行くんじゃリアリティが無くて興ざめ。
今時ハーレクイン・ロマンスでも山あり谷ありでハッピーエンドに向かっていくんだぜ。
有川浩はちゃんと伏線を張り巡らせ、読者とさやかをどん底に突き落としてくれるのでご安心ください。(?)
ここからが早かった。
(以下、心の声。)
もうわかってるんですよ。ハッピーエンドなんでしょ?
こんなの辛いし悲しいじゃんか。
ねぇねぇハッピーエンドだって言ってよ!
ああ、早くホッと出来るところまで読み進めたい。
その一心で後半は驚異的スピードで読み切りました。
家族との会話も上の空になるくらい、続きを読みたくて読みたくて仕方なかったです。
果たしてイツキとさやかはどうなってしまったのか。
文字通り、「植物図鑑」だった
作中には、さやかとイツキたちが出会う、たくさんの山野草が出てきます。
すぐに読み始めちゃったので最初は気づかなかったですが、話中に出てくる植物の写真、表紙裏にちゃんと名前と写真付きで掲載されています。(電子書籍版にあるかは未確認です。)
タンポポ、フキノトウ、フキ、ツクシくらいなら想像で補えますが、ノビル、イヌガラシ、スカシタゴボウ…。わかります?
私は割りと知らない山野草の方が多かったので、写真と名前付きのページを見つつ、読み進めるとより理解が深まりました。
(気分はさしずめ、図鑑とにらめっこしているさやか。)
山野草料理レシピとしても◎
また、山野草を使った料理の数々も、巻末にレシピがついているので再現可能!
問題は、山野草が生えている環境かどうか、という事ですが。
私が作中でやってみたいなと思ったのは、よもぎの葉っぱのお茶と、アップルミントティー。
葉っぱにお湯を注ぐだけでできるというなら、簡単だからやってみたいなーと。
さやかが一番好きなパスタ、と言っていた「ノビルのパスタ」も興味がありますが、ノビルが果たして近所で採れるかあやしいところです。
クックパッドで探してみると、イツキが作ったフキの混ぜごはん【植物図鑑】のレシピがありました。
他にも、ありそうですね。
あと、どうでもいいけど気になったこと。
作中では、料理する事を「料る」という動詞を使って表現していました。
割りと頻繁に出てくるのですが、そんなに一般的な動詞だったかなぁ、と。
調べたらちゃんと意味としては合っているんですがね。
(作家の先生相手に失礼な物言いですが、聞きなれなかったものでつい…。)
[動ラ五(四)]《「料理」の動詞化》料理する。物事をうまく処理する。「山鳥を―・る時、青年は…台所へ立って」〈漱石・永日小品〉
料るより引用
覚えたらちょっと使ってみたくなるのが人情というもの。
今度家族に「これは料るのが大変で…。」とか言ってみちゃおうかな。
イツキ気分で。
イメージは「小梅」キャンディ
やはり触れざるを得ないのが、表紙の素敵さ。
飾っておきたいくらい可愛い表紙なんです。
手にとってまず、小梅キャンディを連想しました。
なんだか甘酸っぱい恋愛もの、というイメージ。
イラストのテイストも「小梅」ちゃんとちょっと似ていたり。
表示だけでなく、裏表紙のイラストも素敵でした。
※写真で裏表紙を撮影して加工したものですが、実物はもっと綺麗です。
イラストはカスヤナガトさん。
今人気のイラストレーターです。
「四畳半神話大系」でお馴染みのイラストレーター、中村佑介さんのテイストとも近いかもしれません。
本棚に収納する時は、背表紙じゃなくて表紙を見せて飾りたいですね。
第一回ブクログ大賞受賞の実力派胸キュンストーリー
第一回(2010年)のブクログ大賞で、小説部門の大賞を受賞したようですよ。
圧倒的な女性の支持を得たとか。
ふむ、納得。
角川書店の「植物図鑑」公式サイトはこちら。↓
植物図鑑 | 有川浩
読めば野草を摘んで料理したくなる、「胃袋&ハート」がキュンとする恋愛小説。
あなたはどう読みますか?